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近大通信司書

生涯学習概論レポート

生涯学習における社会教育について述べてください。

 

 生涯学習における社会教育について、両者の概念および相互関係を中心に述べる。

生涯学習

 はじめに「生涯学習」と「生涯教育」という用語の扱いを明確にする。両者はその歴史的要素や主体性の相違等から混乱を招きやすいが、このレポートでは設題に合わせて、引用部分を除き、全て「生涯学習」という表現を使用することとする。

 我が国に生涯学習の概念が導入されたのは1965年「生涯教育について」の中でラングランが提唱したことによる。この概念の登場は日本の教育の仕組みを根本的に問い直させる非常に重要な契機となった。

 その後、生涯学習について様々な考え方が登場し、年月を経て議論や改良を重ね、現在「生涯学習」という概念は人々の間にほぼ定着してきたといえる。数ある定義のうち、テキストにある「人間一人ひとりが、学習することを通して、家族・友人・地域・職場そして国家から、さらに地球全体の人間だけでなく動物や植物を含めた全ての生物、そして自然との『共生』を目指した発想である」という考え方が最も包括的かつ的確に「生涯学習」というものを表現していると思う。

②社会教育の領域

 「社会教育」とは、「社会における教育」という意味であり、「家庭教育」、「学校教育」と並べられる「教育の領域」を表したものである。その領域は非常に広範であるため、「家庭教育及び学校教育以外の領域」という定義にならざるを得ない。

 家庭教育は血縁関係者によって構成される家庭で行われる教育であり、学校教育は学校教育法によって厳密に定められた教育である。したがって、それ以外で行われる教育が全て社会教育ということになる。

生涯学習における社会教育の位置づけ

  生涯学習と社会教育の相互関係については、1971年に社教審が答申した「急激な社会構造の変化に対処する社会教育のあり方について」において、「生涯教育において社会教育が果たすべき役割は大きい」、また「生涯教育という考え方は、生涯にわたる学習の継続を意味するだけでなく、家庭教育・学校教育・社会教育の三者を有機的に統合することも要求している」と明示されている。 

 つまり、生涯学習は前記3つの領域の上位概念であり、社会教育は生涯学習の下位概念の一部分なのである。言い換えれば、「生涯学習」は生涯にわたる学習者の主体的な営みの総体であり、「社会教育」は特に成人のための学習支援事業なのである。

生涯学習と社会教育の類似点と相違点

 佐藤晴雄(1998)は類似点として「生涯にわたる全ての発達段階にある人を対象にしている」、「インフォーマルな教育を含んでいる」、「現代社会における課題解決を目的にしている」、「自発的・自主的学習を重視している」、「学習の内容と方法(形態)が多様である」ということを挙げ、相違点として「社会教育は営為だが、生涯教育は当為(概念)である」、「社会教育は教育の領域に基づく概念だが、生涯教育は時間軸に基づく概念である」、「社会教育は生涯教育の下位に位置する概念である」ということを挙げている。この指摘について山田一隆(2002)は「"実態に即した"明瞭で端的な整理である」と一定の評価をしている。説得力のある理論として紹介する。

⑤社会教育の本質

 家庭教育では、学習者としての子どもは父母の拘束の下にあり、また学校教育は在籍する学校の拘束の下にある。一方、社会教育は他から命令・強制された行うものではなく、純粋に自分の意思・意欲のみによって行うものである。つまり、これが社会教育の本質である「非拘束性」なのである。

 また、ひとりの人間の一生を考えた場合、家庭や学校に所属している期間は、乳幼児期から青年期の一時期である。その時期を除く期間全てを社会教育が請け負う、すなわち上位概念である生涯学習の大部分を社会教育が担っていると考えられる。ここに生涯学習と社会教育の強い関係性を認めることができる。

 社会教育は、人々の自己学習、相互学習の活動を教育的に高めようと、意図的に行われるものであり、その目的は人々の生涯にわたる生活課題の解決を援助して、その過程で人間的な成長を促すことである。

 特に人々に親しみやすい施設である図書館には、教育基本法第12条で規定された「国および地方公共団体は、図書館、博物館、公民館、そのたの社会教育施設の設置、学校の施設の利用、学習の機会および情報の提供その他の適当な方法によって、社会教育の振興に努めなければならない」を積極的に実践し、社会教育に貢献することが期待される。

 

〈引用文献〉

・佐藤晴雄『生涯学習と社会教育のゆくえ』成文堂,1998,165p

山田一隆「社会教育」「生涯学習」の概念整理と「まちづくり」への社会教育的接

   近 ~「生涯学習政策」下の社会教育の現代的理念の検討に向けて~『政策科

   学』立命館大学政策科学会,10-1,2002,pp.143-160

   (http://ww.ps.ritsumei.ac.jp/assoc/policy_science/101/101_12_yamada.pdf)

 

〈参考文献〉

 

※講評:よく考えたレポートです。(坂井先生)